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ブローカ野における再帰的計算(2010年10月8日(金)開催)について

日時:2010年10月8日(金)17:00 ―18:00 
場所:三田キャンパス東館6階G-SEC Lab
 

講演者:幕内充博士
(Max Planck Institute for Human Cognitive and Brain Sciences)


ヒトが生み出す文には限りないヴァリエーションがあるが、そのためには文を産出する規則に再帰的な適応を認めざるを得ない(Chomsky, 1956)。近年になって、動物のコミュニケーション・システムには再帰が見出されないことから、再帰がヒトに特有の認知能力であるとする主張がなされ(Hauser et al., 2002)、サルには、再帰によって生成される音節系列の弁別が出来ないというデータも提出された(Fitch and Hauser, 2004)。ヒトのfMRIにより、サルにでも弁別可能な、より単純な音節系列の処理の際には前頭弁蓋部が、そして再帰によって生成される、より複雑な構造を持つ音節系列の処理にはブローカ野が活動することが見出された。この発見は系統発生学的に古い皮質がサルとヒト双方に処理可能な系列を、そして新しい皮質であるブローカ野がヒトにのみ処理可能な系列を処理していることを示唆する(Friederici et al., 2006)。我々は自然言語においても再帰により生成される「中央埋め込み文」の処理がブローカ野で行われること、そしてこのように複雑な文の処理には不可避的に随伴する記憶負荷が、ブローカ野直上に位置する下前頭溝によって対処され、さらにこの二領域が機能的・解剖学的に緊密な連絡を持つことを明らかにした(Makuuchi et al., 2009)。次に、我々は再帰を「外的に付与された刺激の操作により得られた内的表象をさらに操作する」ことと定義し、言語と数学で同一の階層構造を持つ系列の処理の際の脳活動を比較したので、その結果を報告する。


Chomsky N (1956) Three models for the description of language. IRE Transactions on Information Theory 2:113-124.
Fitch WT, Hauser MD (2004) Computational constraints on syntactic processing in a nonhuman primate. Science 303:377-380.
Friederici AD, Bahlmann J, Heim S, Schubotz RI, Anwander A (2006) The brain differentiates human and non-human grammars:
functional localization and structural connectivity. Proc Natl Acad Sci U S A 103:2458-2463.
Hauser MD, Chomsky N, Fitch WT (2002) The faculty of language: what is it, who has it, and how did it evolve? Science 298:1569-1579.
Makuuchi M, Bahlmann J, Anwander A, Friederici AD (2009) Segregating the core computational faculty of human language from working memory. Proc Natl Acad Sci U S A 106:8362-8367.


詳細は以下PDFよりご確認ください。
ブローカ野における再帰的計算について